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『MBAにおける研究とは』(上)

MBAにおける研究の主流は「実証研究」

前回、研究とその分類についてみてきました。今回はMBAでよく使われる研究についてお話しします。

MBAでは理論研究と実証研究の内、実証研究を行う学生が大半を占めます。それは、理論研究を行ってはいけないということではありません。MBAはMaster of Business Administrationのことを指します。このことからもわかるようにMBAは他の修士クラスと異なり、ビジネスと密接に絡み合っているため、研究テーマはタイムリーであり、学生のほとんどは現役のビジネスマンです。そのため、他の修士クラスに比べ、時間的制約が厳しく、限られた時間のなかでビジネスと両立しながら研究を進めることになります。そのため、多くの時間と労力を費やす必要のある理論研究は、研究を専任でおこなっていないMBA生にとって選択しづらいものとなります。その結果、多くの学生は実証研究を選択することになります。

理論研究が分野毎に区別される研究(例えば、自然科学における生物学・物理学、社会科学における経営学・心理学などの区分のこと)であるのに対し、実証研究は方法論として、質的研究・量的研究・歴史研究という方法論に区分されます。

実証研究の三つの方法論

質的研究とは文字やコミュニケーションを通じて、人と接することにより、単にその文字が表す意味だけではなく、環境や文章全体、各個人の考え方まで含めた文字や言葉が紡ぎだす行間をつかみとることにより、ある事柄や現象を解き明かそうとする研究手法です。

量的研究とは数値や数式を用いて、科学的に現象をとらえ、説明しようと試みる研究手法です。

さて、科学的に現象をとらえるというのはどういうことでしょうか?

科学的であるということは、現象を説明するにあたり、その説明のなかに矛盾が含まれておらず、提示された測定結果が安定した信頼性を持つことは当然重要です。ただ、それだけでは科学的であるとは言えません。科学的であるためには、研究結果により、以降に発生する現象を予想でき、そして、現象をコントロールする提案が可能になるということが必要です。ここでいうコントロールとは、あくまで理論的に「こうすれば、こうなる。」ということを言える、ということです。実際に「こうすれば、」ということをどのように実現するかは別の課題になります。但し、それを実現した際には、確実に「こうなる。」でなければなりません。

歴史研究とは過去の出来事や時代に対して、検証可能な客観的な証拠を用いて、歴史的事実に迫ろうとすることです。ただ、このような証拠は手に入りにくく、断片的であることがほとんどです。

そのようななかで、証拠を元に想像や類推により歴史的事実に迫ろうとするものです。但し、想像や類推はそれ以上のものでもそれ以下のものでもなく、それをもって歴史的事実であるとすることはできません。又、人の想像や類推が入る以上、それは、各個人の環境や思想による恣意性を完全に排除することはできません。このようなことを理解しつつ、可能な限り検証可能な客観的な証拠を積み上げて、論理的に構成していく必要があります。

結びに

MBAに取り組んでおられる方々、取り組むことを考えている方々、興味をお持ちの方々など、いろいろな状況の方がおられると思います。数回に渡り、MBAで行なう研究の概略に対して説明させていただきました。MBA推進協議会では、今後、具体的な研究手法などについても説明する機会を設けていきたいと考えております。MBAの醍醐味は、MBAを取得する通過点で得られた知識、思考方法を駆使し、未知である研究テーマを考え、先行研究し、調査し、分析し、思考して論文を完成させる、この修士論文を書き上げる作業に集約されています。論文作成に近道はありません。論文作成を行わずにMBAホルダーと名乗ることはできません。世界中のMBAホルダーには、この論文を書き上げた時の苦労の共有こそが、MBAホルダーの繋がりを強める礎となります。この苦労を乗り越え、皆さまがMBAホルダーとして、我々の絆の中に入って頂けることを心待ちにしております。

文:加藤 浩樹/Hiroki KATO
Anglia Ruskin University MBA
一般社団法人MBA推進協議会 理事
プロフィール: 専門分野:半導体・液晶製造装置のエンジニアを経て、営業に転身。営業の枠組みを超え、製品企画やアライアンンスにより、シナジーを生み出し、新事業を立ち上げることにより、複数の企業で実績を残す。企業変革や企業再生の分野にも着手し、成果を上げている。